お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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🔵映画「逢いびき」は、男女の悲恋を詩情豊かに描いた不朽の名作(1945イギリス)レビュー3.8点

逢びき [DVD]

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「アラビアのロレンス」「戦場にかける橋」で二度のアカデミー賞監督賞に輝く巨匠デヴィッド・リーン監督の出世作。

【あらすじ】

平凡な主婦のローラは買物帰りのバーで、医師アレックスと出逢う。その後、偶然の再会を経て、二人の距離は次第に近づいていく。アレックスもまた既婚者。ローラはアレックスへと傾く自分の気持ちを怖れ、その想いを必死に抑えようとするが……。

【感想・レビュー】

哀しい別れの予感の中で、周囲の視線に怯えつつも逢わずにはいられない男女の悲恋を詩情豊かに描いた不朽の名作。

不倫に「詩情豊か」もないだろう!と仰る御仁もおられると思うが、あくまでこの二人、プラトニックな関係(……チューはしたけど)。そこに品性が感じられるから「詩情豊か」となるわけで、最近の「ゲス不倫」「ダブル不倫」(なんと品のない造語!)などとは全く次元も趣も異にするもの。

もっとも、プラトニックであろうとなかろうと既婚者同士の恋愛など許されるものではないという指摘は倫理的に全く正しい(それはローラがアレックスに心を奪われ、正気を失っていく様を見ていれば十分分かる)。しかし倫理的に許されないからといって、人を好きになる気持ちを止めることができるだろうか。皮肉なことに、その気持ちが真剣であればあるほど、あるいは許されないものであればあるほど後戻りは難しくなるはずだ(それでも止められるという規範意識の強い人ばかりだったら、この世から不倫は一掃され、ひょっとしたら戦争だってなくなるかもしれない)。人の心ってやつは、なんてやっかいなものだろう。この映画を観ていると、つくづくそう思う。

人は愚かで弱い生き物だ。だからこそ、宗教や哲学、文学や映画が存在する。そう考えると、他人の愚かさや弱さを(もっともらしい倫理観で)嗤うことはできず、その愚かさや弱さすら可愛いもの、愛おしいものと受け止めることができるはず。そういった寛容さこそが、人が宗教や芸術に向き合うときの基本的な姿勢ではないかと思う。

話がちょっと大袈裟になったが、要するにこの作品、真剣さ故に抜き差しならぬ関係になったウブな大人の愚かさを愛でる映画だと解釈したい。