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🔴本「号外・少年の悲哀」/国木田独歩(岩波文庫)レビュー4.0点

号外/少年の悲哀―他六篇 (岩波文庫 緑 19-4)

号外/少年の悲哀―他六篇 (岩波文庫 緑 19-4)

独歩と言えば「武蔵野」や「牛肉と馬鈴薯」が有名だが、学生時代好きだったのは「馬上の友」と「画の悲み」。書店を探してみたが、どちらの作品も見当たらなかったので、やむなくBOOKOFFでこの本を購入。

【感想・レビュー】

解説によると、独歩の作風にはロマンティシズムとリアリズムの二傾向があって、この本では両者を代表する短編八篇を収録したとのこと。なるほど、作品ごとに雰囲気や味わいが大きく異なっているはそのためか。 

しかし、個人的には、詩人独歩の本来の持ち味が発揮されているのは浪漫的作品だろうと思う。 

好みの作品は、社会の底辺に棲む薄幸の女の苛酷な運命を幼い少年の目を通して描いた「少年の悲哀」と、鳥に憧れ、鳥になることを夢みた6歳の少年の悲劇を哀惜の念を込めて描いた「春の鳥」。どちらも、弱いものに対する独歩の純粋で慈悲に満ちた心情が滲み出て切々と胸を打つ名作。温泉宿の女中に恋をした孤独な青年の激しい恋情と失恋の絶望を描いた「湯河原より」もペーソスの中に滑稽さも感じられて味わい深い佳作。

文体こそ漢文調の名残を留めて少々いかめしいが、慣れれば苦になるほどではない。

古典には100年、200年の評価に耐え抜いた重みというものがある。分かる分からないは別として(少なくともこの本は分かりにくいということはない)、若い時にその重みを肌感覚で実感することはとても有益だと思う。