お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵映画「ベイビー・ドライバー」/(2017アメリカ)感想*リリー・ジェームズの愛らしさで+0.2の加点*レビュー4.0点

ベイビー・ドライバー(通常版) [Blu-ray]

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【懐かしのサイモン&ガーファンクル】

ちょっと周回遅れの感はありますが、たまにはメジャーなやつもいいかも、ということで。

最初は……はぁぁ?ベイビー・ドライバー?赤ちゃんの無免許運転?自動運転の新手の試験走行?なんてアホな考えが一瞬頭をかすめました(笑)

次に頭に浮かんだのが、サイモン&ガーファンクルの『ベイビー・ドライバー』(コレって確か、バイク狂のアンチャンの歌でしたね)。なんか関係あるんかなと思っていたら、やっぱりエンドロールに流れていました。Bingo!

わりと古い楽曲が使われているせいか、ちょっとレトロな雰囲気が漂っていて、オッサン世代にも結構ウケる映画かなと思います。

私も十分楽しめました。もっとも、一番のお気に入りは、音楽でもカーチェイスでもなく、可憐なヒロインのデボラちゃん(リリー・ジェームズ)なんですが……。

【あらすじ】

幼い頃、交通事故で両親を亡くし、自らも耳に障害を負ったベイビー。耳障りな音を消すために常にiPodとロックが欠かせない。

そんなベイビーの仕事は闇の組織のドライバー。ボスのドクにその天才的ドライビングテクニックを見込まれて、銀行を襲った仲間の逃走を手助けする仕事を請け負っていた。

そんなベイビーが、レストランで働く可憐な女性・デボラと知り合い、恋に落ちる。

ベイビーは、親身に自分の身を案じてくれる養父やデボラのために組織を抜けようと決心するが、ドクはそれを許そうとしない。

今度のヤマは郵便局の襲撃。ベイビーがいつものように車で待機していたとき、現場で思わぬアクシデントが起こる……。

【感想・レビュー】

全体的にスピード感があって、退屈を感じさせない映画。エンタメ映画としてはよく出来ていると思います。

特に前半は文句なし。カーチェイスよし、音楽よしで、悪役のキャラも個性的、そしてなによりベイビー(アンセル・エルゴート)がクールでスタイリッシュ。

なのに、後半ヘタレ気味なのがもったいないですね。失速の原因は、ベイビーとドク(ケビン・スペイシー)のキャラのブレ?

ベイビーは、出だしクールで“ワォ!”、恋に目覚め、好青年に変身して“ヘェ⁉”、最後は拳銃ぶっ放して“アチャー‼”って感じですかね。ドクも、ラスボス感ありまくりだったのに意外とイイ奴だったりして、拍子抜け。こんなクライム・アクション系の映画では、ワルは最期まで、徹底的にワルであってほしいのですが……コレって、最近プライベートでサンドバッグ状態のケビンに対する忖度なんでしょうか(笑)。

期待していたバッツ(ジェイミー・フォックス)も、たいした見せ場もなく途中退場してしまうし(予想外の小物感⤵)……ワル仲間での収穫は、バディ(ジョン・ハム)位でしょうか。けだるい雰囲気から醸し出される彼の静かな狂気と偏質的な執念はなかなか見応えがありました。

それに身体の不自由な養父が良かったですね。手話でのぎこちない会話の一つ一つにベイビーへの素朴な愛が滲んでいて、これは一服の清涼剤。デボラは演技がどうこう言う以前に、庶民的な愛らしさがなんとも魅力的で、いっぺんにファンになりました。やっぱりハリウッドは美人の裾野が広いですね。

ゴキゲンな映画だけれど、後半の失速感が惜しい映画。予定調和の結末に持っていくのに多少ムリしたようにも感じます。後半にレッド・ツェッペリンやらディープ・パープルなんかをブチ込んでいたら疾走感をキープできたかも、なんて思ったりもするんですが、これは個人の趣味の問題ですね。

🔴本「遠くの声に耳を澄ませて」/宮下奈都(新潮文庫)感想*雲間から差し込む一筋の光を見るような小説*レビュー4.2点

遠くの声に耳を澄ませて (新潮文庫)

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【凛として潔いヒロインたち】

旅をモチーフにした12の物語。

テクニカルな部分では、物語の登場人物が別の物語で再登場する趣向が面白いですね。物語ごとに場所や時間軸の設定が異なっているので、それぞれの登場人物をより多面的に理解することができ、各篇の関連性にも興味が湧いて、(この工夫によって)読む愉しみもグンと増しているような気がします。

ストーリーとしては少し重たい気はしますが、フッと心が軽くなるような結末がいかにもこの作家らしいですね。雲間から差し込む一筋の光を見るような小説だと思います。

いつもながら宮下奈都の世界は、清潔感があって優しいですね。

【あらすじ】

“旅”をきっかけに新たな一歩を踏み出そうとする女性たちの姿を描いた、12のハートウォーミング・ストーリー。

『クックブックの五日間』や『ミルクティー』も好みですが、一押しは『アンデスの声』。

《アンデスの声》 

ずっと働きづめだった祖父が倒れた。慌てて病室に駆け込んだ瑞穂に祖父は「キト」と呟く。

それは、幼い頃瑞穂が祖父の膝の上で聞かされた懐かしいお伽噺の街の名前だった。続けて祖父は「ベリカードを全部お前にやる」と言う。

帰宅して祖母からベリカードを見せてもらった瑞穂は、キトが架空の街ではなく、エクアドルの首都であることを知る。そして、そのカードがキトのラジオ局から届いたものであることも。若き日の祖父母は、キトのラジオ番組のリスナーだったのだ。

高い山と、抜けるような青空と、甘い香りを放つ赤い花。それは瑞穂にも幽かに見覚えのある風景だった……。

【感想・レビュー】

ヒロインは人生の岐路に立つ女性たち。テーマは“自分らしくあることの大切さ”でしょうか。タイトルにある「遠くの声」って、普段は気づくことのない、自分の内面の深いところにある原体験であったり、幽かな記憶であったり、本当の想いであったり……そんなものを指しているんだろうと思います。

旅のカタチは、空想の旅、傷心の旅、放浪の旅、二人旅、出張の旅、帰郷の旅……など様々。自分らしくありたいと、旅をきっかけに古い殻を脱ぎ捨て、新たな一歩を踏み出そうとする女性たち。その姿が凛として潔く、女性の強さとかしなやかさが強く印象に残る一冊です(何かを決意したときの女性って、本当に美しいなぁと思います。ちょっと怖いけど)。

一押しの『アンデスの声』で描かれるのは、カードを眺めることで地球の裏側の美しい街を旅する若き日の祖父母と、二人の仲睦まじい姿に想いを馳せる孫娘。どこにも旅行したことがなかった祖父母の豊かな旅の記憶に触れて満たされていく孫娘の想いがしみじみと伝わってきて、なんだか幸せのお裾分けをもらったような気分になる一作です。

また、20頁にも満たない短編なのに、時空を超えた広がりのようなもの(ちょっと大袈裟かもしれませんが)が感じられるところもこの短編の醍醐味だろうと思います。それはたぶん“永遠に変わらないもの”(例えば憧れだとか愛だとか)が描かれているから、という気がするのですが。……いずれにせよ、時間と場所の隔たりを超えて、誰か(世界)と想いが繋がっているという感覚はなんとも心地よいものですね。

良い小説とは、“これしかないという言葉で創造された完璧な宇宙”のこと。『アンデスの声』は、改めてそのことを確認できた一作かなと思います。

🔵映画「はじまりのボーイミーツガール」/(2016フランス)感想*フランス版“小さな恋のメロディ”*レビュー4.3点

はじまりのボーイミーツガール DVD

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【心が浄化されるピュアな映画】

なんて素敵な映画!

瑞々しくて、微笑ましくて、ちょっぴり胸が疼いて……抱きしめたくなるような映画ですね、コレは。

少年と少女の淡い初恋、父と子の絆、男の子同士の厚い友情、少年のほろ苦い想い、少女の夢への挑戦……全てが12歳の子どもたちの世界。それを子ども目線で素直に描いているところが素敵です。情感溢れるチェロの旋律と彼らの生き生きとした日常を捉えた映像とのシンクロも鮮やか。

無垢の魂に触れて、自分の心も浄化されたような気分になる一作です。

【あらすじ】

12歳のヴィクトールは同じクラスのマリーに憧れている。しかし、落ちこぼれのヴィクトールにとって優等生のマリーは高嶺の花、いつも遠くから眺めるだけの存在だった。

ところがこの頃、マリーの方から積極的なアプローチが。不思議に思いつつも有頂天のヴィクトール。二人はすぐに仲良くなるが、マリーはヴィクトールに言えない大きな秘密を抱えていた。

その秘密に気付いたヴィクトールは、自分がマリーに利用されていたことを知り、マリーと絶交する。

しかし、何があっても夢を諦めないマリーの情熱に動かされ、ヴィクトールはマリーを支えようと決意する……。

【感想・レビュー】

深刻なテーマを扱っていながら、明るく前向きな気持ちにさせてくれる映画。深刻さを救っているのは、やっぱりフランス流の粋とエスプリでしょうか。

ヴィクトールと父親との会話がふるっています。『愛してるかどうかどうやって分かるの?』と聞いてくる息子に『愛は目に表れる。目を見りゃわかる。よく覚えとけ。目は愛の物語の第一章だ』。マリーが嘘をついたと非難する息子に『ウソのない恋なんて恋じゃない』……。

貧しい自動車修理工のオヤジだけど、悩める息子にこんな気の利いたアドバイスができるなんて、カッコいい父親ですね。まだ幼い我が子を一個の人格として尊重する態度も素晴らしいと思います。それでいて、亡くなった?妻をいつまでも忘れられない弱い一面も。ヴィクトールに促されて遺品をバザーに出すときのためらいの表情に妻への深い想いが覗いて、思わずうるっときてしまいます。

一方、マリーの父親はかなりわからず屋ふう。今しか見えない12歳の子どもの視点で見ると、確かに独善的に映るかもしれませんが、娘の将来を案じる父親の視点で見ると、娘の夢より病気の治療を優先するのは当然の事。この父親の葛藤も痛いほど分かります。

オヤジって辛いですね……ということで、この映画、ヴィクトールとマリーの初恋が軸にはなっていますが、父親たちの強さと弱さを繊細に描いているところも見どころの一つかと思います。

意地っ張りで健気なヴィクトールと天真爛漫で小悪魔的なマリーの二人が初々しくてキュート、しかもストーリー展開にわざとらしさがなく(深刻な話なのに“お涙頂戴”に流れないところがフランス流?)、音楽と映像のシンクロもバッチリ。総じて、“監督の瑞々しい感性が光る青春映画の佳作”と言ってよいかと思います。

あと、忘れられないのが、いつもヴィクトールを励ましてくれる格言好きの親友。父親はイスラム教、母親はユダヤ教、お祈りは週ごと代わりばんこというブッ飛んだ家庭も笑わせてくれますが、何と言っても、ヴィクトールの無謀な計画を全力で応援するその侠気(おとこぎ)が見上げたもの。GJです!大人社会へのレジスタンスを描いた「小さな恋のメロディ」のガキ大将・オーンショーを彷彿とさせるこの親友、この映画一番の強キャラだと思います。

ちなみに、12歳にして男を振り回す小悪魔マリーに扮するアリックス・ヴァイヨは、将来を嘱望されるヴァイオリニストだとか。利発で育ちの良さそうな雰囲気なのも、それで納得です。

🔴本「幽霊人命救助隊」/高野和明(文春文庫)感想*人生、生きてるだけで丸儲け*レビュー3.9点

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

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【生きるヒントが散りばめられた一冊】

天国に行きそびれた4人の男女がこの世に戻って人命救助に奔走する姿を描いた、笑いあり涙ありのハートフル・ストーリー。

設定は奇想天外ですが、“生と死”に関する深い洞察を含んだ、なかなか読み応えのある一冊です。独自の死生観を持つ養老先生が解説を担当しているのも、何となく分かる気がします。

重いテーマを軽妙なユーモアでうまく捌いて笑いと涙のエンタメ大作に仕上げた作者の手腕はお見事。エンタメ作品ながら、生きるヒントが随所に散りばめられたマジメな一冊かと思います。

ただ、本の帯にある“ラストでボロ泣き”は、ちょっと大袈裟かも……。

【あらすじ】

東大受験に失敗して自殺した裕一が、高い断崖の頂で出会ったのは、老ヤクザ・八木と気弱な中年男・市川とアンニュイな美女・美晴。彼らはみな、自殺して何十年もその頂で無為の日々を過ごしているという。

と、そこへ神様を名乗る老人がパラシュートで降臨。神様は彼らに『頂に放置されたのは、命を粗末にした罰。天国に召されたければ、下界の自殺志願者を7週間のうちに100人救うべし』と命令し、彼らをこの世に送り込む。

神様からもらった様々なアイテムを使って、4人組の必死の救助活動が始まる。

借金、病気、人間関係のトラブルなどを苦に自殺を図ろうとする人たちの命を救ううち、4人は次第に生きることの価値に気付いていく。

そして、いよいよ100人目のミッション。最後の自殺志願者は、裕一を死に追い詰めた彼の父親だった。

裕一は、父を救い、家族を救うことができるのか。そして、4人は無事天国に上ることができるのか……。

【感想・レビュー】

なにせ100人もの命を救うミッションですから、エピソードもいろいろ。それで話が膨らんでしまうのも致し方ないのかもしれませんが、それでも600頁は長すぎる気がします。神様の要求水準がちょっと高過ぎたのでしょうね。似たようなエピソードが何度も繰り返される感じがあって、やや冗長な印象を受けるのが玉にキズかなと思います。

自殺の原因がある程度類型化されているのだから、それに沿ってもう少し救助人数とエピソードを絞り込んだ方がよりダイレクトにメッセージが伝わったのでは、と思うのですが……。

ただ、「自殺」という重たすぎるテーマを巧みに捌いて長編エンタメに仕上げた作者の手腕はたいしたものだと思います。ややもすると沈みがちになる気分を拍子抜けするようなギャグで救ってくれるところがありがたいですね。

その意味では、老ヤクザ・八木の存在感が際立っています(もっとも、彼のギャグが古過ぎて笑うに笑えない読者もいるかと思いますが)。本の中とはいえ、こういう古き良き日本人に出会うと、気持ちが和みます。まぁ、それだけ世の中が世知辛くなって、自分の気持ちもささくれ立っているってことなんでしょうね。

この作品で最も感銘を受けたのは、作中の随所に散りばめられた作者の人生観や死生観を示唆する名言の数々。

いくつか例を挙げると……

『この国には1億2千万人もの人々がいるのに、どうして孤独というものがあるのだろう』

『悲観的に見える将来は、同時に好転する可能性をも秘めている』

『人は、たった一つの人生しか歩むことができないから、別の生き方をうらやましく感じてしまうのだろうか。たった一つ、というのは貴重なはずなのに』

『人の世はきまぐれだ。冷淡かと思えば意外に温かく、頼ろうとすれば突き放される』

……深いですね。これらの名言に出会えただけでも読んで良かったと思える一冊です。

“人生、生きてるだけで丸儲け”……これは明石家さんまの座右の銘として有名になった名言ですが(「別府亀の井ホテル」の創業者・油屋熊八の言葉らしいですね)、この作品のメッセージも、詰まるところ、そういうことなんだろうなと思います。

人生は気の持ちよう次第。生かされていることに感謝する気持ちがあれば、人は案外たやすく幸せになれるのかもしれませんね。

🔵映画「マクファーランド 栄光への疾走」/(2015アメリカ)感想*ヒスパニック系住民の居心地のよい温かさ*レビュー4.0点

マクファーランド - 栄光への疾走 - (字幕版)

マクファーランド - 栄光への疾走 - (字幕版)

【劇場未公開はもったいない】

コレって劇場未公開⁉ちょっともったいないですね。ディズニー十八番の実話モノなのに(しかもケビン・コスナー!)。

題材がマイナースポーツのクロスカントリー、ストーリーが王道のサクセスストーリーと来れば、確かにジミでベタな印象は拭えませんが、そこは実話の力、素直に感動できるフツーに良い映画だと思います。

やっぱり人の善意が感じられる映画っていいもんですね。特に、ヒスパニック系住民たちの優しさ、温かさにはうるうるしっ放しです。

【あらすじ】

アイダホの高校で問題を起こしてカリフォルニアのマクファーランド高校に左遷されたフットボールコーチのジム・ホワイトは、一家を揚げてマクファーランドの街に転任する。

しかし、そこはヒスパニック住民が数多く暮らす貧しい農業地域で、妻や娘たちは失望の色を隠せない。ジムもまた、先輩フットボールコーチとのトラブルが原因で部のコーチを解任され、失意の日々を過ごしていた。

そんな折、ジムは体育の授業で生徒たちの脚力に驚かされる。彼らは家族と共に農地で働き、毎日家から高校まで走って通っていたのだ。

ジムはクロスカントリー部の立ち上げを思い付くが、陸上の経験のないジムと、生活の重荷を背負う生徒たちの前には、様々な困難が待ち構えていた……。

【感想・レビュー】

左遷されたコーチ、クロスカントリー部を立ち上げ→生徒、渋々付き合う→初戦惨敗→生徒、がっくり→生徒の父兄の反対→部の存続の危機→コーチ、頑張る→生徒、やる気になる→州大会への出場権獲得→そして州大会の結果は?……と、ここまで書いたらネタバレなんでしょうが、この作品に関しては、結果ではなくプロセスが肝なので、まあ、ノープロブレムということで。

ちょっと出来すぎのストーリーに思えますが、実話なのでケチのつけようがないですよね。何と言っても、見どころは、コーチと生徒たちの成長のプロセスです。

左遷に不満タラタラで、マクファーランドで実績を挙げ、早く待遇のいい高校に移りたいと考えているジム。農作業の手伝いに明け暮れ、将来への希望が持てない生徒たち。そんな彼らがクロスカントリーと出会ったことで少しずつ人生に対する向き合い方が変わってきます。ジムの変化も見どころですが、なによりマイノリティの生徒たちが、“走ること”で貧困や差別と闘う姿が文句なしに感動的です。

また、変わっていくのはジムの奥さんや娘たちも同じ。貧しくともアットホームなヒスパニック系の隣人たちの善意に触れて、彼女たちも、物質的な豊かさよりも遥かに価値のあるものに気づいていきます。

この作品は、単なる一発逆転のサクセスストーリーではなく、彼らの成長の物語。だからこそ、観る者の心を揺さぶるんだと思います。

演出的には、生徒たちの置かれている環境の過酷さを丁寧に描いているところがいいですね。登校前、下校後のキツイ農作業、それでも一向に豊かにならない暮らし。貧困から抜け出すためには教育しかないのに、家が貧しいために大学への進学ができず、結果、親と同じ低賃金労働者として生きていくか、悪事に走ってムショ暮らしかという負の連鎖。それでも“走ること”に希望を見出した彼らは、みんな明るく逞しい。生まれて初めての海ではしゃぎ回る彼らのキラキラした笑顔が忘れられません。

ケビン・コスナーもハマリ役ですね。“ちょっと偏屈で不器用だけど根は優しいオッサン”という彼の雰囲気は、こういうヒューマンドラマにぴったりだと思います(「ドリーム」の役柄もそんな感じでしたね)。

これは1987年の実話。エンドロールに流れる生徒たちの今を見て、“あぁ、みんな立派になって”と感無量です。

ディズニー、スポーツもの、実話というジャンルなら、「グレイテスト・ゲーム」、「クール・ランニング」、「アイアン・ウィル」なんかが好みですが、これも好きな一本です。

🔴本「深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう『尖閣』出撃」/数多久遠(祥伝社文庫)感想*圧倒的リアリティで描かれた沈黙の戦い*レビュー4.1点

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

深淵の覇者 新鋭潜水艦こくりゅう「尖閣」出撃 (祥伝社文庫)

【近未来の予言の書?】

私、根っからの高所&閉所恐怖症。だから、飛行機にも乗れず、旅行はもっぱら新幹線、泊まる所は極力平屋の旅館。昔から絶対ムリと思っていた職業は、鳶職と潜水艦の乗組員ですw

で、今回は、中国の最速潜水艦と日本の見えない潜水艦の熾烈な戦いを描いたミリタリー・サスペンス。

面白いけど、ゾッとする小説です。もちろん潜水艦の密閉空間が怖いのもあるんですが、最先端の防衛装備品や「尖閣」を巡る政治的・軍事的シチュエーションなど、作品のディテールがリアルすぎて、“この展開、満更フィクションでもないんじゃね?”と思わせるところが怖いです。海洋進出の野心を隠さなくなった最近の中国を見ていると、尚更その感を強くします。

過剰反応は禁物ですが、国家間の関係では油断も楽観も禁物。この作品が近未来の予言の書とならないよう願うばかりです。

【あらすじ】

尖閣諸島に中国軍駆逐艦が接近。牽制のため出動した海自駆逐艦『あきづき』が突如魚釣島近海で消息を断つ。

やがて、あきづきが中国の新型潜水艦『アルファ改』によって撃沈されたことが判明し、日本初の女性首相・御厨は、新型ソナー兵器「ナーワルシステム」を搭載した潜水艦『こくりゅう』の投入を決定する。こくりゅうの艦長・荒瀬は、領有権主張のデモンストレーションのため尖閣沖に派遣された空母『遼寧』への攻撃命令を受けていた。

一方、ナーワルシステムを開発した技官の木村美奏乃は、5年前荒瀬の指揮する潜水艦で不審死した恋人の死の真相を究明するため、荒瀬との接触の機会を窺っていた。

そして、遼寧に修復不能の損害を与えたこくりゅうに再び出動命令が下される。沖縄の海でアルファ改によって海自の潜水艦が撃破されるという由々しき事態が勃発したのだ。

中国軍の野望を挫くため、美奏乃を乗せたこくりゅうは、アルファ改の潜伏する沖縄の海へと一路南下する。

敵の魚雷攻撃を60ノットのスピードで難なく躱す最速潜水艦アルファ改と、ナーワルシステムで敵の探知を躱す見えない潜水艦こくりゅう……いずれ劣らぬバケモノ艦同士の国運を賭けた海中バトルが始まった。

果たして決戦の行方は?……そして美奏乃は恋人の死の真相に辿り着くことができるのか?

【感想・レビュー】

潜水艦モノの私のイチオシは、「沈黙の艦隊/かわぐちかいじ」ですかね。全32巻の長編漫画ですが、“現実論に立脚した世界平和の在り方”を問うスケールの大きな作品で、私、これを読んで初めて潜水艦の兵器としての優位性を理解しました(思想や哲学が感じられるという点で、「火の鳥/手塚治虫」と並ぶ私の愛読書です)。

あと、パッと頭に浮かぶのは、「眼下の敵」とか「レッド・オクトーバーを追え!」とか「クリムゾン・タイド」あたりでしょうか。

潜水艦モノに比較的ハズレが少ないのは、たぶん“密室性”と“不可視性”という潜水艦の特質が関係しているんだろうと思います。逃げ場のない密室状況下で見えない敵と戦うというクライシス感が否が応にも読者(観客)の興奮を掻き立てるんでしょうね。

この作品も、こくりゅうとアルファ改の交戦の場面は出色の出来と言ってよいかと思います。頼みとなるのは先端装備と知力と胆力のみ。荒瀬艦長と林艦長の知謀の限りを尽くした頭脳戦と激しく魚雷が交錯する交戦の模様は、緊迫感と臨場感に溢れていて、まさに圧巻。この作家の筆力はたいしたものだと思います。

林艦長を通して明かされる中国軍の内部事情もなかなか興味深いですね。軍のトップの失脚を狙って空母遼寧を見殺しにする林艦長の深謀遠慮など、中国軍ならさもありなんと思わせる説得力があります。

この作品のストーリーは、こくりゅう(荒瀬)とアルファ改(林)の死闘、美奏乃の恋人の死の真相究明の二つが軸になっていますが、前者のスケールがあまりに大きいために後者への興味が薄れ、両者間でミスマッチを起こしている気がしないでもありません。フィクションとしてはそこが惜しいところかなと思います。美奏乃もそれほど魅力的なキャラとは思えず、少し鬱陶しく感じる位なので、むしろこちらの軸は省くか早めに収束させて、日中間の緊張関係などの背景描写に注力した方が良かったような気もします。

しかし、この作品のリアリティは凄いですね。圧倒的な情報集力と的確な分析力は、さすが元幹部自衛官と感心します。東アジア情勢がキナ臭くなっている今だからこそ、この作品を読んで国防の意味を考えてみるのも有意義かと思います。

ちなみに、私にとっての国防(国を守ること)とは、愛する家族を守り、自分の住む町や故郷を守ること。国防の要となる愛国心は、あくまで家族愛とか郷土愛といった個々の国民のごく自然な感情の延長線上にあるものと理解しています。愛する家族を守るためどのような国のカタチ、自衛のカタチがベストなのか、そこを出発点として、自分なりに国防の在り方を考えていきたいと思っています。

🔵映画「イップ・マン 継承」/(2016中国, 香港)感想*泣けるカンフー映画*レビュー4.2点

イップ・マン 継承 [Blu-ray]

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【奥さんがキレイ……】

中国武術・詠春拳の達人イップ・マンの活躍を描くシリーズ第三弾。

前二作(「序章」、「葉問」)はすっ飛ばして最新作「継承」から。

いやぁ、面白い映画ですね。イップ・マンの至誠の生き方を軸に、迫真のカンフーアクションから涙を誘う夫婦愛まで盛り込んだ、見応えのある105分。

伝統武術の無駄のない動きって、力強くて優雅で美しいものだと改めて分かりました。イップ・マンの奥さんもめっちゃキレイだし、これは満足の一本です。

【あらすじ】

舞台は好景気に沸く1959年の香港。

裏社会を牛耳る不動産王・フランクは、土地再開発の利権を狙ってイップ・マンの息子が通う小学校の土地に目を付ける。フランク一味が悪辣な地上げ工作を繰り返していることを知ったイップ・マンは、自警を買って出て、何度も手下たちを蹴散らかす。

業を煮やしたフランク一味は、イップ・マンの息子らを攫って揺さぶりをかけるが、同門の武術家、チョン・ティンチの手助けもあって、子どもたちは無事保護される。

ちょうどそんな頃、イップ・マンの妻が癌に冒され余命幾ばくもないことが発覚する。

これ以上家族を危険に晒せないと悟ったイップ・マンは、フランクに一対一の闘いを挑む。一方、不遇の天才武術家チョンは、自分こそが詠春拳の正統の後継者と喧伝して、イップ・マンに挑戦状を叩きつける。

果たしてイップ・マンは、彼らとの死闘を制して、人生で最も大切にしているものを守り通すことができるのか……。

【感想・レビュー】

かのブルース・リーの師にして、誠と誇りの人、イップ・マン。劇中の次の台詞が彼の高潔な人柄を最もよく表していると思います。

……『社会は不公平 だが人間は平等であるべき 統治者が尊いとは限らない 貧者が卑しいとは限らない 世界を動かすのは金持ちや権力者ではなく 心ある者だ』

世界の横暴な為政者たちに聞かせてやりたい言葉ですね。

ドニー・イェンの物静かで穏やかなイメージがホントに役柄にぴったり(何となく先頃亡くなった加藤剛さんのイメージとカブるんですが……)。しかも、ドニーのアクションシーンでの動きが流れるようにスムーズなので、いかにも真の達人といった雰囲気が滲み出ています。

しかし、マイク・タイソンとの闘いはちょっとご愛嬌でしたね。元ベビー級世界チャンピオンの顔を潰す訳にもいかず、かといって負ける訳にもいかずということで、扱いに困ったのか、ぎりぎりセーフの展開。やや消化不良なので、ここは、”タイソンなんて誰が引っ張って来たんだ!”と嫌味の一つ位は言っておきたいところです。

まぁ、その分、チョンとの死闘で溜飲は下がりますが。お約束の掛け合いとはいえ、スピード感溢れる瞬時の攻防は見事の一言。なかでも刀剣での闘いは半端なくスリリングです。私怨や遺恨ではなく、賭けるものは誇りだけ。純粋に道を極めんとする者同士の闘いって、やっぱりカッコいいですね。観ていて気分が高揚します。

男同士の死闘にも増して印象的なのは、イップ・マンとウィンシンの夫婦愛。無骨な夫と優美な妻の最期のダンスシーンや妻が夫の闘いを静かに見守るシーンなどは、仲睦まじい夫婦の心情が滲み出て、胸を打たれるものがあります。

リン・ホンってホントに素敵な女優ですね。スラリとした長身で優雅な立ち居振る舞い、どことなく儚げな表情がとても印象的な女性です。

考えてみると、しみじみとした夫婦愛を謳ったカンフー映画というのも珍しいのかもしれませんね。その試みはリン・ホンの魅力によって十分成功しているように思います。